

会社と個人事業主との違いは分かりますか?

登記が必要かどうかしか分かりません。
事業を始める際には、まず「会社を設立するか、それとも個人事業主として始めるか」という重要な選択を行う必要があります。この選択は、単に名称や形式の違いだけではなく、税金や社会保険、資金調達のしやすさ、信用力、さらには将来の事業拡大や承継まで、事業運営のあらゆる面に影響を及ぼします。
この記事では、会社設立と個人事業主の制度的な違いや、それぞれのメリット・デメリットを比較しながら、選択の判断材料となるポイントをわかりやすく解説します。これから事業をスタートする方が、自分に最も合った事業形態を選べるよう、実務的な視点から整理していきます。
会社設立とは
会社設立とは、事業を行うために法人格を持った会社を新たに作ることをいいます。
法人格を持つことで、事業と個人が法律上明確に区別され、契約や資金調達、財産管理などを会社名義で行えるようになります。
会社法において、設立できる会社の種類は主に次の4種類です。
- 株式会社:株式を発行して資金調達を行うことができる会社
- 合同会社:LLCとも呼ばれ、出資者が全員、有限責任社員である会社
- 合資会社:有限責任社員と無限責任社員がいる会社
- 合名会社:出資者が全員、無限責任社員である会社
このうち、合同会社・合資会社・合名会社は持分会社と総称されます。持分会社は比較的内部自治の自由度が高く、定款や契約で柔軟な運営が可能です。
会社設立の中で最も多いのは株式会社であり、日本の法人の大半を占めます。知名度や信用力の高さ、株式による資金調達の可能性が主な理由です。
個人事業主とは
個人事業主とは、その名のとおり、法人格を持たずに個人の名義で事業を営む人のことをいいます。事業の開始にあたって、株式会社や合同会社のような法人を設立する必要はなく、比較的簡単な手続きで始められるのが特徴です。
具体的には、開業後1か月以内に税務署へ「開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)」を提出することで、正式に個人事業主として認められます。
個人事業主は、事業の経営者と事業そのものが法律上区別されないため、得た利益や負債はすべて事業主個人に帰属します。
つまり、事業上の債務については無限責任を負うことになります。一方で、事業内容の変更や廃業が比較的容易であり、初期費用や維持費用も法人に比べて少なく済むという利点があります。
法人も一人で設立できる?
なお、株式会社は一人でも設立することが可能で、その場合も代表取締役1名で経営を行うことができますが、この形態は法人であるため、個人事業主とは区別されます。
法人の場合は、会社名義で契約や資産保有を行うことができ、税務や社会保険の制度面でも個人事業主とは大きく異なります。
個人事業主は、フリーランスや自営業者、専門職(デザイナー、プログラマー、コンサルタントなど)、士業に多く見られ、事業の立ち上げ段階や副業から始めたい場合にも適した形態です。
会社設立と個人事業主の違い
会社設立と個人事業主は、表面的には「法人格があるかないか」の違いに見えますが、実際には事業を始めるにあたって必要となる手続きや準備が大きく異なります。ここからは、それぞれの形態でどのような違いがあるのかを、一つ一つ解説していきます。
個人事業主の場合
まず最も大きな違いは、事業開始時の手続きの複雑さと費用です。個人事業主の場合、基本的には税務署に「開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)」を提出するだけで事業を始めることができます。場合によっては青色申告承認申請書などを追加で提出する必要はありますが、それでも手続きは非常にシンプルで、費用もほとんどかかりません。そのため、比較的すぐに事業を始めたい人や、副業からスタートする人にとって適した形態といえます。
会社設立の場合
一方で、会社を設立する場合はより多くのステップを踏む必要があります。会社を新たに作るためには、まず会社の基本事項(商号、本店所在地、事業目的、役員、資本金など)を定め、定款を作成します。定款認証が必要となるケースもあり、これに公証役場での手続きが加わります。その後、法務局にて会社設立の登記(商業登記)を行い、会社として正式に登記簿に記録されることで初めて法人格が与えられます。
さらに、会社設立登記が完了した後には、税務署や都道府県税事務所、市区町村役場など各種役所に対して届出を提出する必要があります。例えば、法人設立届出書、青色申告の承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書、社会保険や労働保険の手続きなどが代表的です。これらは会社として事業を運営していくうえで欠かせない最低限の手続きであり、個人事業主に比べて準備に時間とコストがかかる部分です。
役所への届出が必要な手続
- 税務署:法人設立届出
- 都道府県税事務所・市町村役場:法人設立届出書
- 年金事務所:健康保険・厚生年金保険新規適用届
事業開始に必要な費用
事業を始める際に必要となる費用には、大きく分けて「開業手続きにかかる費用」と「事業運営に必要な運転資金」の2種類があります。このうち、ここで取り上げるのは開業手続きにかかる費用です。これは事務所の家賃や備品購入費といった運転資金とは異なり、事業を正式にスタートさせるために必ず発生する「初期コスト」にあたります。
個人事業主の場合
まず、個人事業主の場合を見てみましょう。個人事業主は、開業にあたり特別な法人格を取得する必要がないため、基本的に事業開始に必要な費用は発生しません。税務署に「開業届」を提出するだけで事業を始めることができ、登録免許税や公証役場での手数料といった費用も不要です。そのため、非常に小さなリスクでスピーディーに開業できるのが特徴です。もちろん、事業に必要な設備や広告費などは別途必要ですが、それらは「運転資金」に分類されます。
会社設立の場合
一方、会社設立の場合は事情が異なります。法人格を取得するためには、法務局で「商業登記(法人登記)」を行う必要があり、この際に必ず一定の費用がかかります。登記をすることで初めて会社としての存在が公的に認められるため、この費用は会社設立において避けて通れないものです。
手続きにかかる費用の目安としては、株式会社の場合はおよそ22万円、合同会社の場合はおよそ10万円とされています。これは法定で定められた登録免許税や、定款の認証費用、印紙代などの合計です。株式会社と合同会社で大きな差があるのは、株式会社では「定款の認証」が必須となるため、その分公証役場での費用が上乗せされるからです。
具体的な内訳は以下のとおりです。
- 株式会社
- 合同会社
- 登録免許税:資本金の額に応じて計算され、最低でも15万円
- 定款認証費用:公証人手数料1.5万~5万円
- 定款に貼付する収入印紙代:4万円(ただし電子定款を利用すれば不要)
- 登録免許税:資本金の額に応じて計算され、最低でも6万円
- 定款認証は不要(公証役場での手数料なし)
- 定款の印紙代:4万円(電子定款を利用すれば不要)
資本金について
会社を設立する際には、登記費用とは別に資本金が必要です。資本金は、事業の元手となる出資金であり、会社の信用力を示す重要な要素です。法律上は1円からでも設立できますが、資本金が少なすぎると取引先や金融機関からの信用を得にくく、口座開設や融資にも影響することがあります。
また、事業内容によっては一定額以上の資本金が必要です。たとえば建設業の許可を取得するには、500万円以上の資本金(または自己資金)が条件とされています。
実務上は、事業規模や信用力を考慮し、100万~300万円程度を目安に設定するケースが多いのが現状です。
事業にかかる税金
事業により利益が出た場合は、税金が課せられます。税金の種類は、会社設立後の法人と個人事業主で異なります。
- 個人事業主には、所得税、個人住民税、個人事業税、消費税
- 会社設立後の法人には、法人税、法人住民税、法人事業税、消費税
それぞれこうした税金が課せられます。
赤字なら所得税や法人税は課せられませんが、住民税の均等割は課税されます。
個人事業主は、住民税の均等割は5000円程度です。
一方、会社設立後の法人は、赤字でも法人住民税の均等割として最低7万円が課税されます。
社会保険の負担
個人事業主と会社設立後の法人は、社会保険の加入義務に違いがあります。
個人事業主は、従業員が5人未満なら社会保険に加入する必要はありません。
一方、会社設立後の法人は、原則として、一人株式会社でも社会保険への加入義務が生じます。
経費にできる範囲
個人事業主と会社設立後の法人は、経費にできる範囲が異なります。
個人事業主は、売上から経費を差し引いた分が事業所得になり、自分の給与を経費とすることができません。
一方、会社設立後の法人は、役員報酬を経費として計上することができます。
そのため、会社設立後の法人の方が個人事業主よりも節税できる可能性があります。
社会的な信用度
個人事業主と会社設立後の法人は、社会的な信用度に差があります。一般的には、会社設立後の法人の方が信用度は高いです。
他の企業との取引がしやすいですし、人材も集まりやすいです。
資金調達手段の違い
個人事業主と会社設立後の法人は、資金調達手段に差があります。
株式会社であれば、株式を発行することで資金を調達することができます。社債を発行する方法もあります。
一方、個人事業主にはそのような手段はありません。 共通する資金調達手段としては、
- 金融機関からの融資等
- クラウドファンディング
- 補助金や助成金
の3つがありますが、いずれも、会社設立後の法人の方が資金調達が容易です。
事業年度の欠損金の繰越控除の違い
個人事業主と会社設立後の法人はどちらも、青色申告書を提出することで損失の繰越控除(赤字の繰越)が可能です。
ただ、個人事業主の場合は、繰越できる期間が3年間に限られます。
一方、会社設立後の法人は、繰越できる期間が10年間あります。.
事業主の責任の範囲
個人事業主と会社設立後の法人は、事業主の責任の範囲が異なります。
事業資金を借りた場合で考えましょう。
個人事業主の場合は、事業主が個人で事業資金を借りているわけですから、自分自身で借金を返済しなければなりません。事業をやめても返済から免れることはできません。
一方、会社設立後の法人の場合は、事業資金を借りるのは法人です。事業資金の返済が難しくなり、経営が行き詰まった時は、会社を倒産させることも可能です。
この場合、原則として会社経営者が会社の借金を負うことはありません。
もっとも、経営者保証をしている場合は、会社を倒産させた後もその債務の返済が続いてしまいます。
まとめ
会社設立と個人事業主の違いについて見てきました。
個人事業主は、事業を開始する際の負担は小さく、税金や社会保険の負担も少なくて済みますが、社会的な信用度や資金調達手段の面では、不利です。
一方、会社設立は、事業を開始する際の負担がある上、税金や社会保険の負担も大きいです。
ただ、社会的な信用度や資金調達手段の面では、有利になります。
こうしたことを考えると、個人事業主はとりあえず事業を始めたい場合に有利な事業形態、会社設立は事業が本格化した場合に検討すべき事業形態ということができます。
